陽だまりの映画館

ムービーコンテスト「作ってみよう」

カナリヤ映画祭ムービーコンテストへの作品応募へお手伝いします。

作品を作って応募したいが作り方が分からない、そんな方に「本宮の映画文化を継承する会」がお手伝いします。

本田裕之へメールください。お会いして、映像作品の制作方法指導、機材の貸し出しなども行います。


 NPO法人 本宮の映画文化を継承する会
            代表 本田裕之
 電話 090-8613-9632
 mail motomiyaeiga@gmail.com


陽だまりの映画館

「1秒先の彼」

2023年7月公開 日本映画 監督:山下のぶひろ 脚本:宮藤官九郎 原作:「1秒先の彼女」

出演:(ハジメ)岡田将生、(レイカ)清原果耶、荒川よしよし、加藤雅也ほか

ストーリー

何事も人より1テンポ早く行動して、失敗が多い郵便局員のハジメ、自分に自信がなく、女性ともうまくいかずに彼女もいない。そんなハジメが路上ライブをしている可愛い女性と仲良くなり、日曜日のデートを約束して布団に入るのだが、起きてみたら何だか知らないうちに日曜日が消え、月曜日になっていた。何が起こったのか、それを知るのは時々切手を買いに来るさえない女子大生レイカと知るのだが、

この作品は、2020年に台湾で制作された映画「1秒先の彼女」のリメイク作品です。

「1秒先の彼女」は、台湾のアカデミー賞と言われる金馬奨(きんばしょう)を受賞しています。

今回あらためてこの作品を観てみましたが、ファンタスティックでいておかしい、そして、ロマンチックな作品で、日本でも話題になった作品でもあり、そのリメイク作品が今回ご紹介する「1秒先の彼」です。

あれ、と思われましたか、日本は「1秒先の彼」、台湾は「1秒先の彼女」と男女が入れ替わっています。なんでそうなったかは制作の山下監督と脚本の宮藤官九郎が対談で話しているのでネットでご覧ください。でも、この変更はとってもよかったと思います、よく決断したとも思います。

リメイク作品は主要なストーリー設定を変更しません。変更してはリメイクになりませんので、しかし、ヒロインを男性から女性へと変更するというのは元の話と大きく違ってくるの可能性があり、思い切った決断だと思います。

しかし、NHKの「あまちゃん」を書いた脚本の宮藤官九郎は、それを上手に処理というより、むしろ、台湾版と違った日本の別のロマンチックコメディーに作り替えたような気がします。台湾の「1秒先の彼女」よりも、日本版「1秒先の彼」を観た後でとても清々しい気分になりました。これは、台湾版とは大きく異なる点です。台湾版は笑いが大部分を占めていて、それはそれでいいのですが。

この映画は、京都というかなり特徴のある街で、かなり癖のある人々が、笑いながらたくましく生きている中に、ケンジとレイカのラブストーリーが織り込まれていく映画です。ですから出てくる人々は大いに笑いを含んだ演技をします、台湾と違った日本の笑いが表現されていますが、その中でレイカ役の清原果耶のみがシリアスな演技をします。

ヒロインのレイカ役は清原果耶です。ご存知の方が多いと思いますが、NHK朝のテレビ小説の「おかえりモネ」のヒロインを務めた若干21歳ですが、実力は誰もが認める女優さんです。

レイカという女性は他の人より何をやっても1テンポ遅い、そのため要領が悪く、少し孤独な女性という役を清原果耶は最小の演技と少ないセリフとで静かに表現しています。レイカがずっと長く持ち続けてきた切ない恋心、ケンジとの出会い支えてとして生きてきたけど、中々会えなかった切なさを、見事に表現していると思います。それは、いい脚本と適切なキャスティングと俳優の力だとも思います。

陰と陽、光と影と言っていいのか、岡田将生や荒川よしよしの笑いの演技の中に1点清原果耶のシリアスな演技がリメイク版とはいえ全く違った日本版「1秒先の彼」を作り上げ、それがこの作品を観た後での清々しい気分に繋がっているような気がします。

デビューしたてのころから注目していて、思い入れのある清原かやがヒロインということでほめ過ぎの感があるかもしれませんが、見て楽しい、そして、清々しい余韻の残る「1秒先の彼」をどうぞご覧ください。

それではここで1曲お送りします。映画「ハウルの動く城」より「世界の約束」歌は倍賞千恵子です。

「共に生きる 書家 金澤翔子」

6月2日公開の日本映画 監督は宮澤正明 出演は金澤翔子 金澤泰子 柳田泰山 宮田亮平などですが、ドキュメンタリー映画ですので皆さん役者さんではありません。

さて、今回の映画で書家金澤翔子さんを知りました。

金澤翔子さんは現在37歳、書家、筆で字を書く、揮毫ですね、その作品でお金を得る、プロの書家です。

その活躍は幅広く2012年にNHKで放送された平清盛のオープニングの題字は翔子さんが書きました。また、京都の健仁寺にある俵屋宗達の国宝「風神雷神」図を書で表したのですが、それがあまりに素晴らしいので、現在、建仁寺で「風神雷神図」と同じように展示されています。また、伊勢神宮や東大寺を始めとした日本を代表する神社仏閣で奉納揮毫や個展を開催し、また、彼女の作品に魅了されて美術館まで作る人もいるほど人気があります。スクリーンに映される書の数々、本当に言葉に表せない感動を覚えました。

その翔子さんですが、実は、ダウン症をもって生まれてきました。ダウン症は染色体の異常で発達障害、身体の一部不自由などのハンディーがあり、一般の学校、社会での活動が難しい人です。

ダウン症で生まれてくる赤ちゃんの確率は600人から800人に一人だそうです。ダウン症で生まれると、どうしても知能、肉体面での発育の遅れや、健常の人に比べると劣る部分があり、親はその子の将来を思い絶望と不安に悩まされます。実際、翔子さんのお母さんの泰子さんも悩み苦しみ、赤ちゃんの頃は子供を治すというお地蔵様巡って、直してくださいと祈って歩いたそうです。

翔子さんが小学校の高学年になるときそれまで行っていた普通学級への通学を断られ、絶望に陥ったお母さんは翔子さんに般若心経を書かせ始めます。それまで、書道の先生をしていて、翔子さんに書の才能があるのではと思っていたおかあさんは、絶望の中で救いを求めて書かせ始めます。小学校4年生に般若心経は難しい、難しい漢字、意味の分からない漢字、翔子さんは泣きながら母を喜ばせようと頑張ったそうです。時にはケンカをして部屋に当時こもることもあったと映画では語られます。

般若心経は300字ほどですが、これを幾度も繰り返ししていくうちに書の基礎が作られ、その後の活躍につながったとお母さんは話していました。

翔子さんを溺愛していたお父さんは小さいときに突然の病気で亡くなりました。母と子は無我夢中で生きてきて、18歳の時、お父さんが生きていたらきっとやってあげただろうという、18歳の誕生日に書の個展を開きます。その個展に来た人々が翔子さんの書に感動して涙を流す人が続出して、そこから、書家として生きる可能性を見出し、今日にいたっています。

お母さんはある時、恐る恐るダウン症の人はどんな人と翔子さんに聞いたそうです。答えは書の上手な人だったそうです。翔子さんの書には、邪がありません。あるお坊さんが仏さまが書いたような書だと

「ある夜の出来事」

1934年公開のアメリカ映画、監督はフランク・キャプラ 脚本はロバート・リスキン、

原作はサミュエル・ホプキンスの「夜行バス」。

出演はピーター・ウオーン役がクラーク・ゲーブル、エリー役がクローデット・コルベット

エリーの父親アンドルーズ役のウオルター・コノリー他です。

ストーリーは

大富豪の娘エリーはプレイボーイで飛行機乗りのウイスリーとの結婚を父のアンドルーズに反対された。その上、マイアミの海上に浮かぶヨットに監禁されたが、父親とけんかの末、海に飛び込んで逃げ出した。エリーは、ニューヨークの恋人ウイスリーのもとへ夜行バスに乗って向かうが、そこで失業中の新聞記者ピーターと出会う。

逃げ出した娘に懸賞金をかけて探す父親と見つかるまいと逃げるエリーの話を記事にしようと、ピーターはカバンを盗まれて無一文になってしまったエリーを助けて二人でニューヨークに向かった。しかし、途中でピーターも無一文になり、寝るところも食べるものもないみじめなでおかしな旅を二人で送るうちに二人は惹かれ合うようになっていったが、ニューヨークが近づいてきてピーターは

1934年公開といえばほぼ90年前の作品です。何十年か前にテレビで2度ほど見た記憶があるのですが、その頃は、50年前だったのでまだテレビで放映されていたのでしょうか、それはともかく、新ためて今回ネットで見て見ましたが、やっぱり面白かったです。

スートリー、会話、映像、俳優、どれをとっても一級の面白さと素晴らしさがあります。

実際この作品は監督、作品、主演男優、女優、脚色の5部門でアカデミー賞を受賞していて、これを制作したコロンビア映画はこの時は、自前の俳優を持てないほど小さかったのがこの映画が大ヒットしてかなり大きくなったと言われています。

また、今回、色々調べたらこの映画はスクリューボールコメディーの最初の記念すべき作品と位置付けられているようです。

スクリューボール・コメディ(Screwball comedy)は1930年代初頭から1940年代にかけてハリウッドでさかんに作られたロマンチック・コメディ映画。常識にとらわれない登場人物、テンポのよい洒落た会話、つぎつぎに事件が起きる波乱にとんだ物語などを主な特徴としています。「スクリューボール」は当時のクリケットや野球の用語で「スピンがかかりどこでオチるか予測がつかないボール」を指し、転じて突飛な行動をとる登場人物が出てくる映画をこう呼ぶようになったようです。

このスクリューボール・コメディと言われる映画たくさん作られてが、興味のある方、先ずはある夜の出来事をご覧ください。アマゾンプライムやネット動画で簡単に鑑賞できます。

次週もこの話の続きをしたいと思います。

第二回

今回ご紹介するのは前回に引き続き1934年公開のアメリカ映画「ある夜の出来事」です。

監督はフランク・キャプラ 脚本はロバート・リスキン、

原作はサミュエル・ホプキンスの「夜行バス」。

出演はクラーク・ゲーブル、クローデット・コルベット、ウオルター・コノリー他です。

ストーリーは省きます。

さて何故そんな古い作品をと思われるかもしれませんが、今見ても面白いですし、この作品が現在でも作られ続いているロマンチックコメディーというジャンルの最初の作品と言われていて、歴史的に有名な作品でもあるからです。

「ある夜の出来事」を始めとして1930~40年代に作られたロマンチックコメディーを総称してスクリューボール・コメディといいます。わかりやすいストーリー、早い展開、そして速すぎるほどテンポのいい会話、ロマンスを演じる男女には経済や階級の大きな差があり通常ではありえない出会いと、困難が待ち受けるがドタバタの末に丸く収まる。

観客はスクリーンで展開されるありえない設定と気の利いた会話に笑い、うなずきながらながら、最後は満足して席を立つ。

1927年に初のトーキー映画と言われる「ジャズシンガー」が登場します。それまでのサイレント映画での男女の会話は音ではなく文字であらわされるのが一般的であり、交わされる会話の量は限られ、情報量としては限られたものでした。また、男性は動き、女性は動かないのが主流でした。サイレント映画の主流はチャップリンやキートンなどの男性の分かりやすい動作であり、女性の活躍の場は男性相手の花としてだけだったと思われます。

それがトーキー映画の普及と共に女性の得意とする会話がそのまま音として伝えられるようになることによって、恋愛の描き方が大きく変わってきたのではないかと思います。

また、1929年の世界大恐慌の影響により、社会が大きく変化し、女性が社会に進出してゆく時期であったので女性が男性と同じように動き回る姿がスクリーンに登場し、その上、男性より言葉の量が多い女性が映画の中心となってストーリーを進めてゆく地位に変化して出来上がったのがスクリューボール・コメディというジャンルではないかと思います。

そして、そのスクリューボール・コメディは長くロマンチックコメディーというジャンルの中で息づいているのではないかと思います。

「ある夜の出来事」では女性は大富豪の一人娘、男性は失業中の新聞記者。有名な「ローマの休日」の女性はある国の女王、男性は新聞記者です。

この頃、ロマンチックコメディー映画があまり作られなくなってきたような気がするのは私だけでしょうか、社会の変化がそうさせているのですかね。最後に、ロマンチックコメディーの女優さんの名前ですが、キャサリンヘップパーン、メグライアン、ジュリアロバーツなどなど

「岸辺露伴ルーブルへ行く」

2023年5月26日公開 日本映画 監督:渡辺一豊 脚本:小林靖子 原作:荒木飛呂彦「岸辺露伴ルーブルへ行く」

出演:岸辺露伴役の高橋一生、泉京香役の飯豊まりえ、七瀬役の木村文乃

ストーリー:特殊能力をもつ漫画家岸辺露伴は青年時代に淡い思いを抱いた女性からこの世で「最も黒い絵」のうわさを聞く。実はその絵はこの世で最も邪悪な絵でもあったのだ。新作執筆の過程でその絵がルーブル美術館に所蔵されていることを知った露伴は取材とかつての慕情のためにフランスを訪れる。ルーブル美術館の地下倉庫に保管されていた黒い絵、そこで露伴は黒い絵が引き起こす恐ろしい出来事に遭遇する。

アニメ、NHKドラマ、映画と岸辺露伴の活躍は広がっているようですが、原作が漫画「ジョジョの奇妙な冒険」のスピンオフ作品ということになっているので、今回の映画も奇妙でかなり恐ろしい内容になっています。しかし、残念ながらスタンドは登場していません。

今回の制作はNHKドラマ製作スタッフが俳優をそのままに制作した映画です。私はそれを見ていなかったので、見慣れた方々と違って新鮮でした。

率直な感想は、この作品は岸辺露伴役の高橋一生が全てです、彼以外にこの役はありえないとまで思ってしまうほど、岸辺露伴と高橋一生がピッタシハマっていて、彼が演じることにより岸辺露伴の実写が可能になっていると思います。

偏屈で尊大で完ぺき主義、一途な性格と行動をが特徴の岸辺露伴を高橋一生が演じると妙に頷いてしまう、また、スタンドは出てきませんが特殊能力の使用と周りで起きる超常現象が当然と思わす高橋一生の落ち着き具合に脱帽です。

役柄と役者の個性のマッチングについては、非常に興味があるところです。どんなに実力がある役者さんでも出来ない、うまくいかない役柄はあると思います。あらためて、キャスティング、配役の妙を感じました。それとは別に高橋一生は実力のあるとともに、独特な色気のあるいい役者さんだと思います。

また、その話では泉京香役の飯豊まりえもいい感じでした。

原作とその登場人物の個性が強い場合はキャスティングによって、作品の良しあしが決まると言えるのではないでしょうか

「怪物」

2023年6月3日公開 日本映画 監督:是枝裕和 脚本:坂元裕二 音楽:坂本龍一

出演:安藤サクラ、永山瑛太、田中裕子、子役:黒川想矢、柊木陽太

ストーリー:大きな湖の側にある町。物語はその町の中心にあるビルの火災から始まります。

単なる子供同士のケンカと思われたものが、いつの間にか思わぬ方向に母や教師や学校を動かして行きます。そして、それが何から始まり、真実があるとすれば何なのか、それを問う別の物語が始まりますが、そこには思わぬものが隠されていて、

はたして、怪物とはなにか?

上映時間125分、濃密でぜいたくで極上な時間でした。ぜひ、映画館に一人で行き、鑑賞し、黙って思い出しながら帰宅しましょうと、勝手な提案です。

さて、是枝監督の是枝裕和、脚本家の坂元裕二、共に私は大好きで、二人の作品はずっと見てきました。今回、二人のコラボで作られた映画「怪物」。待ちに待った公開日に鑑賞し堪能しました。そして、今でも複雑で重い気分と同時に清々しい晴れやかな気分を映画の場面を思い出しながら味わっています。

人は見ていないのに見たふりをする、そして、聞いていないのに聞いたふりもする。そうやって、多くのことが事実と違うあやふやなものになり、時には悪意が盛られた噂となって広がってゆきます。「真実はなんなのか」真実を知りたいと人は願います。しかし、

真実は一つではないし、さらに、真実は作られていくものと私は思っています。

さて、この映画は、ある出来事を時間をさかのぼったうえに、当事者各個人の視点でもう一度描き直すという、複雑な形を取っています。どうしてかと言えば、真実を追求するにはまず、過去に戻らなければなりません。そして、真実は人によって違う可能性があるということだからです。

しかし、この方法は一つ間違えば、分かり難いつじつまの合わない作品になる可能性があるのですが、そこは、坂元裕二です。鮮やかな手腕で場面場面を構成してゆきます。最初はバラバラで不気味なだけだった人々が何度か過去と視点を変えてゆくうち人間味を帯び、そして、何気なくかわされる会話が新たな事実を示し、それが幾重にも幾重にも重なってゆくと全く違った真実が人がそこに現れてくるという、魔法のような脚本です。

是枝監督は人間を単純に描きません。それは当たり前で人は複雑で不確かな生き物です。そして、是枝監督の目の先にはいつも子供たちの視点があるような気がします。

子供はあくまで成長の途上にある存在であり、親に社会に頼り、翻弄されて生きている存在です。そこには、子供なりの複雑な事情や感情あり、それを是枝監督は子供だからという視点では描きません。また、子供は未来です、そして、そこには何といっても生きるエネルギーが満ち溢れ、清々しい空気も流れている、いや、流れていなくてはなりません。

ドキュメンタリー畑で育った是枝監督はロケ撮影が中心です、美しい風景、普通の人々の生活、それらが丹念に描かれます。

万引き家族の安藤サクラの泣く演技には驚かされましたが、今回は普通の子供を愛するシングルマザーを演じています。そして、普通であることと同時に、子供を守ろうとしてモンスターペアレンツなってしまう、その不気味さも演じます。

そして、不気味と言えば、田中裕子演じる校長先生の不気味さは恐ろしいほどでした。それとは裏腹に、人間の深い悲しみや子供の様に、はずかしげに嘘の告白をするシーンの真実味にこの女優さんのすごさを改めて思い知らされました。

今年のカンヌ映画祭でこの作品は「クィア・パネル賞」と脚本賞を受賞しました。「クィア・パネル賞」はLGBTQを描いた作品から選ばれます。

「TAR」

2022年公開のアメリカ映画。監督・脚本・製作はトッド・フィールド。出演はリディア・ター役がケイト・ブランシェット、フランチェスカ・レティーニ役のノエル・メルラン、シャロング・ウッドナウ役のニーナ・ホス、重要な役は殆ど女性である。

ストーリー

世界最高峰のオーケストラの一つであるドイツのベルリンフィルで、女性として初めて首席指揮者の座を掴み、天才的な能力と類まれなプロデュ―ス力で、自身を輝けるブランドとして作り上げることに成功したリディア・タ―。本の出版やマーラーの交響曲第5番のライブ録音を控え、キャリアの絶頂にある彼女だが、創作者として、指導者としての壁に苦しみ始めていた。そんな時に、タ―のもとに届いたいある知らせをきっかけに彼女の完ぺきな世界が少しづつ崩れ始める。

以前どこかで、男の一度はしてみたい職業がオーケストラの指揮者と映画監督だと聞いたことがあります。政治家や会社の社長など一種の権力を持つ職業が多く存在する中、なぜオーケストラの指揮者と映画監督なのか、それは、その権力によって音楽や映像としてあらわそうとしているのが、自分の頭の中のイメージであり、自分のイメージを具現化するために組織と多くの人間を使う。それは、恐ろしくそして、官能的な職業がオーケストラの指揮者であり、映画監督なのかと思うのですが。

そして、実際その欲望を持つのは男性だけとは限りません。女性でも機会があればそれをしたいと思うのが当然だと思います。ターは女性としてその力を手に入れます。

しかし、その到達点には当然恐ろしい罠が口を広げて待っている。それも、世の習いというものです。

この映画ではレナード・バーンスタイン、トスカニーニ、フルトヴェングラー、そしてカラヤンなど有名な指揮者の名前と共に彼らの音楽家とは別の苦労話、と共にそれら指揮者がもった権力者としての栄華盛衰も語られます。

そして、帝王と言われたカラヤン、カラヤンはタ―のモデルであり、この映画にはカラヤンのイメージ、そしてエピソードがちりばめられています。

ター役のケイトブランシェットの演技はどこまでも熱く、深く、彼女無ではこの映画は無かったと思います。そして、この映画はターを中心にした女性の愛憎劇でもあると思われます。

「せかいのおきく」

監督脚本は坂本順二、出演は黒木華、池松亮介、寛一郎、佐藤浩市、石橋蓮司

モノクローム白黒映画です。現実にはモノクロームの世界はないはずなのですが、モノクロームの映画は何故か落ち着いて見ることができます。

また、この映画の舞台が江戸時代なのでモノクロームの映画だと風景がリアルに見えてくるという効果も期待したのかもしれません。

ただ、この映画がモノクロームで作られた理由はそればかりでなくではなく、この映画の中に糞尿のシーンが多く、カラーでは中々難しかったということかもしれません。

お話しは、江戸庶民の糞尿を買い取り、郊外に運び発酵させて肥料として農家に売るという商売をしている二人の若者を中心に江戸時代の庶民生活を描いています。

何故、人糞肥料をとりあげているか、それはYOIHI PROJECTが制作した作品だからです。日本映画製作チームと世界の自然科学研究者が協力して、様々な時代の「良い日」に生きる人間の物語を創り、「映画」で伝えていくというプロジェクト、気候変動や地球環境の危機が叫ばれている今、私たちの子孫に映画を楽しむ「良い日」が訪れることを願ってエンターテイメントの力でアクションを起こすというYOIHI PROJECTの第一作がこの「せかいのおきく」です。

SDGsと江戸時代。物がないから再生を、持続可能な社会を、江戸の庶民はは普通にその社会の中で生き生きと生活していました。そんな江戸時代の一つの循環が人糞を使った飼料の利用でした。江戸庶民の人糞は郊外に運ばれ飼料となり作物を育て、それが江戸庶民の食卓に戻ってくるという循環型社会がそれがこの映画の重要なテーマでもあります。

私の子供の頃は水洗トイレが少なく、トイレの糞尿をくみ取るバキュームカーが我が家にも来ていました。そして、畑の側には肥溜めがありました。

常に新しいものが生み出される現代、物が溢れ、情報まであふれ出ていますが、人にとって本当にそれが幸せなことなのでしょうか

時代劇といえば黒木華、そして、親子共演の寛一郎と佐藤浩市、芸達者の池松壮亮などが悔し涙、笑い、愛、と江戸庶民の元気を映し出します。

「せかいのおきく」少し臭い感覚が残りますが、本当の幸福を考えるにもぜひみていただきたいと思います。